東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)13号 判決
事実及び理由
審決取消事由の存否について判断する。
(原告主張の審決取消事由1について)
原告は、引用例の反射板は「椀形」であるのに対し、本願考案の反射板は、断面やや放物線状の二次曲面をなした細長いものであつて、放物線状の曲線を導線とする「柱面」をなしているから、両者の全体の形状は基本的に異なつているのに、審決(成立について争いのない甲第一号証)は「断面やや放物線状の二次曲面をなした形状で……ある点では両者に相違はない」として右の重要な相違点を看過した旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第二号証の二(手続補正書)によれば、本願考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、事実摘示第二の二のとおりであり、これによれば、本願考案における反射板は、「断面やや放物線状の二次曲面をなした細長い」ものであれば足り、それ以上それが原告主張のような「柱面」を構成するものに限定されるものではないところ、引用例(成立について争いのない甲第三号証)の反射板は、椀形主笠体及びその内部に設けられた椀形体を複数個に分割したものであつて「椀形」ではあるが、これも本願考案における「断面やや放物線状の二次曲面をなした」形状のものということができるから、審決が両者の反射板について「断面やや放物線状の二次曲面をなした形状で……ある点では両者に相違はない」としたことに誤りはない。そして、両者の反射板の全体の形状の相違については、審決は相違点<1>として、本願考案の反射板の形状が細長いことを挙げているのであつて、この点に関して、相違点の看過というべきものはない。
さらに、原告は、引用例においては、照射面への配光を細長くするために、反射面を有する椀形主笠体の内部に、前記椀形主笠体の反射面と配光値を異にし、椀形体を複数個に分割した形状の反射板を配置するという構成を採つているのに対し、本願考案においては、放物線状の曲線を導線とする柱面をなした反射板を設けると共に、その上部中央に、そのフイラメントが該反射板の法線と偏位させて位置決めされた高性能ランプを垂直に取付けるという構成を採ることによつて照射面への配光を細長くしようとするものであるから、審決が「照射面への配光を細長くするための反射板の中央部にランプを垂直に設けた照明器具である点では両者に相違はない」としたのも、重要な相違点を看過したものであると主張する。
しかしながら、前述のとおり、本願考案の反射板は、原告主張のような「放物線状の曲線を導線とする柱面をなした反射板」に限定されるものではなく、前掲甲第三号証によれば、引用例の反射板は、主笠体1の内部に、椀形体を複数個に分割した反射板2を設け、主笠体1と反射板2はそれぞれ配光値を異にする断面やや放物線状の二次曲面を形成した形状であつて、ランプを笠体内の中央部に垂直に配置し、主笠体1と反射板2の配光値の異なる反射面による配光の組合せで楕円(細長い)、その他任意形状の配光面を得ることができるものであることが認められ、このことからすれば引用例の反射板と本願考案の反射板とは、照射面への配光を細長くする程度に差異が認められるとしても両者はなお、「照射面への配光を細長くするための反射板」ということができ、したがつて、本願考案と引用例のものとの対比において、審決が「照射面への配光を細長くするための反射板の中央部にランプを垂直に設けた照明器具である点では両者に相違はない」としたことに誤りはなく、審決はまた、引用例のものと異なつて、本願考案が反射板を細長くしたことは長管蛍光灯照明器具などに見られる周知技術から、きわめて容易に想到しうることとしたものであるから、審決には原告が主張するような本願考案と引用例との相違点看過の違法はない。
(審決取消事由2について)
原告は、審決は、反射板を細長くしたものは例えば長管蛍光灯用照明器具などで周知のことであるというけれども、これらの長管蛍光灯用照明器具の反射板が放物線状の曲線を導線とする柱面をなしていたとの証拠はなく、また、本願考案におけるように、放物線状の曲線を導線とする柱面をなした反射板の上部中央にランプを垂直に取付けるという構成は本願考案以前には存在していなかつたものであり、本願考案のかかる構成を採ることによる「高性能ランプから発する光線は、反射板の二次曲面に反射して細長の照射範囲をもつて投光され、不必要な方向に拡散する光線はきわめて少なく、効果的に必要箇所のみを照射するので、光量の損失がない。」との効果を奏しうることを記載した技術文献も存在しない旨主張する。
そこで考えるに、成立について争いのない甲第二号証の一、二(本願考案の原明細書及びその手続補正書)によれば、本願考案は、照射面への配光を細長くするための手段として、断面やや放物線状の二次曲面をなした細長い形状の反射板を用いたものであると認められるが、照明器具において、照射面への配光を細長くするために、断面がやや放物線状で細長い形状の反射板を用いることは、本願考案の明細書(前掲甲第二号証の一)自体「この考案は、細長い照射範囲をもつて投光される照明器具に関するものである。従来、この種のものは、断面やや放物線状で所定長さの反射板もしくは傘を設け、それら反射板や傘の長手方向と平行してランプを取付けているものである。」(第一頁一一行目ないし第二頁一行目)と記載していることに徴しても、本願考案の出願前において周知のことであると認められるから、仮りに審決の挙げる周知の長管蛍光灯用照明器具の反射板が放物線状の曲線を導線とする柱面をなしていたとの証拠はないとしても、本願考案におけるように、照射面への配光を細長くするために断面やや放物線状の二次曲面をなした細長い形状の反射板を用いることは、周知の技術であるということができ、右のような反射板の上部中央にランプを垂直に取付けるという構成は、断面やや放物線状の二次曲面をなした形状で、かつ照射面への配光を細長くするように形成された反射板の中央部にランプを垂直に設けた照明器具が記載されている引用例から、当業者がきわめて容易に考案できたものと認められ、原告が主張するような本願考案の効果も特別のものということができない。
右のとおりであるから、相違点<1>についての審決の判断は結局において誤りはなく、この点に関する原告の主張は理由がない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
本体ケース内に断面やや放物線状の二次曲面をなした細長い反射板を設け、この反射板の上部中央に開口部を形成し、この開口部に挿入させつつそのフイラメントが前記反射板の各部の法線と偏位させて位置決めされた高性能ランプを垂直に取付けたことを特徴とする細長照明器具。